大判例

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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)226号 判決

1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。

(一)(1) 成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例記載の発明は、自動ゆで麺製造装置に関するものであつて、蓋付きの半円筒形バケツト13を無端鎖8、8´に取付け、無端鎖の循環運動につれて、バケツトは漏斗5下から沸騰湯槽6内の水平通過部Bを経て下方に移行し、その後上下方向に数回往復動しながら湯槽内及び次の冷却水槽7内を移行し、冷却水槽を通過後反転部Aを経て漏斗下に戻るもので、この行程中、蓋が開放された状態で移送されてきたバケツトは、漏斗下で生麺を収容し、水平通過部Bで蓋を閉じ、反転部Aで下向き(開口縁が下方位置)状態にあるバケツトの蓋を開いて、茹麺を排出し、その後蓋を閉じることなくバケツトが上向きに反転して漏斗下に戻る構成のものであることが認められる。

第二引用例記載の発明における前述した構成の中、バケツトと鎖との関係及びバケツトの反転について検討すると、前掲甲第四号証によれば、別紙図面(二)第1図には鎖に取付けられているバケツトは、いかなる位置にあつても、その開口縁が常に鎖の外側(鎖の進行方向左側)で、かつ鎖の進行路と平行に描かれていることが認められ、このことは、バケツトが鎖に一体的に固定されていることを示すものであつて、第1図において、鎖が図面右方に進行する時はバケツトの開口縁は上方に、鎖が図面左方に進行する時はバケツトの開口縁は下方に、また鎖が図面上方に進行する時はバケツトの開口縁は左方に、鎖が図面下方に進行する時はバケツトの開口縁は右方に位置することになる。すなわち、鎖の湯槽内での進行方向に従つてバケツトは向きを変え、反転するものであつて、バケツトが漏斗下で生麺を収容して湯槽中を水平通過部Bに向かい閉蓋する時と、湯槽内で上下方向に往復動を繰返した後水槽に向かう時とでは上下反転していることが明らかである。

また、第二引用例記載の発明における前述した構成の中、バケツトの蓋の開閉作用について検討すると、前掲甲第四号証によれば、別紙図面(二)第3図には、鎖に固定されたバケツト13が右方向に進行する時、バケツトの蓋12に設けた突起21が湯槽内に取付けた押圧片20に当たつて蓋12が回動し、蓋がバケツトの開口縁を覆い、蓋を閉じる構成が示され、同第4図には、下向きのバケツトが左方向に進行する時、蓋12に設けた突起23がフレーム9上に取付けた押圧片22に当たつて閉蓋位置にある蓋が回動し、蓋が開く構成が示されていることが認められる。もつとも、第1図については、蓋の開放部すなわち反転部Aにおいて、押圧片22の左側の漏斗直上のバケツトは、押圧片22に当たつた後の位置であるから蓋が開放されていなければならないが、蓋が閉じた状態に記載されているのは明らかな誤記と認められる。

(2) 原告は、第二引用例の発明の詳細な説明に、「冷却水槽7に移り冷却された後、反転部Aに達し、半円筒形バケツト13は反転して個室11内のゆで麺は個室11ごとに一団となつて排出するものである」(第二引用例第一頁右欄第一七行ないし第二〇行)と記載されていることを根拠に反転部Aで反転するものはバケツト自体である旨主張する。

しかしながら、バケツト自体が反転部Aで反転して茹麺を排出するためには、バケツト13は少なくとも反転部Aの直前では上向きで移送されてこなければならないが、前述した第1図において、バケツト13は冷却水槽内から反転部Aに至るまで下向きで蓋を閉じたまま移送されてきており、原告の主張は第1図の記載と明らかに矛盾する。また、バケツト自体が反転するものであるならば、当業技術者において、どのような反転機構を用いるのか明細書及び添付図面の記載から容易に理解することができるような記載がなされるべきであるのに、第二引用例にはそのような記載が全くなく、更に、反転部Aに設けられたフレーム9の押圧片22と蓋の突起23との関連構造がバケツトの反転とどのような関係をもつものであるかを理解できる記載もない。そして、他に反転部Aにおいて反転するものがバケツト自体であるとしなければならない合理的理由はなく、かえつて、前記(1)認定の事実に照らすと、反転部Aで反転するのは、バケツトそのものでなくバケツトの蓋であることが明らかであり、第二引用例の発明の詳細な説明における「反転部Aに達し、半円筒形バケツト13は反転して」との記載は、「反転部Aに達し、半円筒形バケツト13の蓋は反転して」の誤記と認めるのが相当であり、このように理解することにより、第二引用例における明細書と添付図面との記載の矛盾はなくなり、第二引用例記載の発明の技術的内容を正確に理解することができるものである。

また、原告は、第二引用例の発明の詳細な説明からみてバケツトは反転部Aではじめて反転するものである旨主張するが、バケツトは鎖に一体的に固定され、鎖の湯槽内での進行方向に従つてバケツトの向きが変化し、反転するものであつて、バケツトは右のとおりすでに湯槽内で反転しているものであるから、原告の右主張は理由がない。

更に、原告は、願書に添付される図面は、明細書に従属するものであるから、特許された発明において明細書の記載と図面の記載との間にそごがある場合には、当然に明細書の記載が優先する旨主張する。

しかしながら、特許公報である引用例にいかなる技術的思想が開示されているかは、引用例の明細書に相当する部分(発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明、特許請求の範囲)及び図面の全記載を検討してその技術内容を把握し判断すべきものであつて、明細書の記載と図面の記載との間に矛盾がある場合に必ず明細書の記載が優先するというわけのものではない。そして、第二引用例記載の発明が「蓋を閉じた後多孔容器を上下に反転する機構」を具えているかについては、第二引用例の全記載を検討すると、前述のとおり、これを具えていると理解できるものであり、発明の詳細な説明中「反転部Aに達し、半円筒形バケツト13は反転して」は、「……バケツト13の蓋は反転して」の誤記と認めるべきであるから、原告の右主張は理由がない。

(3) 以上のとおり、第二引用例記載の発明において、反転部Aで反転するのはバケツトの蓋であり、バケツトが漏斗下で生麺を収容し、湯槽内を水平移行し、水平通過部Bで閉蓋し、閉蓋後反転して湯槽から水槽を経て下向きとなつて反転部Aに至る連続した作用が認められるから、第二引用例記載の発明は「蓋を閉じた後多孔容器を上下に反転する機構」を具えているとした審決の認定に誤りはない。

(二) 成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例には、茹槽の上部から茹槽内に入り、茹槽の水面下を横(水平)方向に進み、折返して再び横方向に進んだ後茹槽上部に至る循環チエーンに、バケツトを架設し、バケツト内にスパゲテイ等の麺線を収容してチエーンの回動に従つてバケツト内の麺線を茹でる装置が記載されていることが認められる。したがつて、第一引用例記載の発明は、茹槽内を回動するチエーンにバケツトを架設し、バケツト内に麺線を収容して茹上げる麺類の連続茹上装置である点において、本件発明及び第二引用例記載の発明と軌を一にするものである。

原告は、第一引用例には、容器が反転する旨の記載がなく、また、横方向一回往復運動の目的や必要性が明らかでなく、本件発明とは作用効果を異にする旨主張する。

しかしながら、審決は、第一引用例記載の容器が反転するものであると認定したのではなく、単に湯槽内で容器が横方向往復運動を行う点のみを引用したものであり、また、前掲甲第三号証によれば、第一引用例記載の発明は、スパゲテイその他水又は液体で茹で又は加熱するような食品の少量又は個別の分量を別々の容器で連続して調理することを目的とし(第一引用例第一頁左欄第一行ないし第八行)、茹槽内を回動するチエーンにバケツトを架設し、バケツト内に麺線を収容して茹上げる装置を採用したものであり、一方、第二引用例には、前述のとおり、バケツトが湯槽内を上下方向に往復動しバケツトが反転するものが記載されているから、この種麺類の茹上装置において、麺線を茹槽の水面下で往復動させて反転を行い、均一に茹上げる技術的手段が開示されているというべきである。そして、成立に争いのない甲第二号証によれば、本件発明は、横方向往復運動と反転とによつて、「麺線を均等にかつ能率良く茹上げうるようにしたもの」(本件発明の特許公報第一欄第二四行、第二五行)であるから、前述した第二引用例及び第一引用例記載の発明と目的及び効果において格別差異がないものと認められる。

したがつて、第一引用例に開示されている横方向往復運動を行う回動チエーンの構成を第二引用例記載の発明に適用して本件発明の構成とすることは、当業技術者がきわめて容易になしうる程度のものと認められるので、この点に関し審決の判断に誤りはない。

(三) 原告は、本件発明は、麺線の投入・排出ごとに蓋を開きかつ閉じる構成を採ることにより麺線中に塵埃その他異物が混入するのを防止することができる旨主張する。

しかしながら、前掲甲第二号証によれば、原告も自ら認めるように、原告主張の右効果については、本件発明の明細書には何ら記載されておらず、当業技術者にとつて自明の効果というべきものであつて、本件発明はこの点に特に発明性を意識してなされたものではないといわざるをえない。そして、食品加工機械において、食品の投入、排出時以外は容器を閉蓋して容器内に塵埃、異物の混入することを防止するのは、従来周知慣用の技術手段であることは当裁判所に顕著な事実であるから、本件発明の多孔容器において茹麺を排出した後蓋を閉じ、生麺を収容するに先立ち蓋を開けるようにする技術は、当業技術者が必要に応じて容易になしうる設計的事項と認められる。

したがつて、右に述べた技術は、蓋を開き茹麺を排出した後、蓋を閉じることなく、再び生麺を収容する第二引用例記載の発明の単なる設計変更にすぎないとした審決の判断に誤りはない。

(四) 以上の理由により、本件発明は、第一引用例及び第二引用例記載の発明に基づいて、当業技術者がきわめて容易に発明をすることができるとした審決の判断は正当であつて、審決には原告主張のような違法はない。

3 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

茹槽の上部から茹槽の内部に至り、水面下を横向に移動した後上下反転して反対向となりさらに横向に水面下を移動した後再び茹槽の上部に至る循環動作を繰返す回動チエーンに多孔容器を架設し、多孔容器には開閉自在の蓋を枢着し、水面に向う上向多孔容器の蓋を開閉して生麺を多孔容器に収容する装置と、反転して水面から上方に向う下向多孔容器の蓋を開閉して茹麺を排出する装置を設けてなる麺線連続茹上装置。

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